建築保存運動のために その一


建築の保存を人に訴えると、すぐに出てくるのが「何故、残さなければいけないのか」という質問だ。この質問が出てきた場合、質問者の態度は既に決まったようなものだ。どんなに丁寧に、壊されようとしている建物の意義を説明しようとも、歴史的価値を誠意を込めて伝えようとしても、もうどうしようもないくらいケンモホロロに拒絶されてしまう。一通り話したところで、決まって同じ質問に戻ってくる。堂堂巡りとは、このことか。

だから、保存運動を広めるために、保存の必要が自明のことにしたい。後手を引かないために、順序を逆に考えてみる。普段から歴史を吹き込んで古い建築物の価値を知らしめるところから始める。つまり、今のところ、これが一向にできていないわけだが、建築に興味も関心もない人のことは一先ず置いて、訊いてみれば皆さん意外に建築に惹かれているもので、語れば面白がってくれるのだから、普段から分かりやすい言葉で気さくに説明したいものだ。

いいものを残すことと、それを語ることは、二つ相俟って文化を育む、そういう寸法ではないだろうか。