高松塚古墳を壊す経緯に疑問点を見つける


文化庁の恒久保存対策検討会(座長=渡辺明義・前東京文化財研究所長)が先月、6月27日に「石室解体案」による特別史跡高松塚古墳奈良県明日香村)の国宝、壁画の修復保存策の採用を決定したと報道された。

その是非は問いたいが、文化庁や専門家の先生方が何をしてきたのかという経緯が分からないままに、黴がどうしようもなく生えてくるから解体する、と「事後報告」だけを投げつけられた感が強くて不満を感じましたよ。腹いせもあって、何か拙いことを隠しているのでは、と勘繰ってみた。すると、怪しい線がなくもない。

平成15年6月26日付国宝高松塚古墳壁画緊急保存対策検討会報告「国宝高松塚古墳壁画緊急保存対策について」曰く、

...壁画の状態については、発見以来行われてきた保存措置によって約30年の間安定した状態で推移したため、ここ10年は年1回春の時期に定期点検を行っていた。

しかしながら、平成13年2月に石槨前の取り合い部壁面強化工事を行った後、同年9月に1年半ぶりに定期点検を行ったところ、石槨内に複数種の黴が発生する状況となったことから、点検回数を増やし黴の早期発見とその処置に努めてきたところである。...

なんだそりゃ。工事で失敗したんじゃないか。聞いてないよ、そんな話。

更にはこんな報告もある。「国宝・高松塚古墳壁画保存のための微生物対策に関わる基礎資料 −パラホルムアルデヒドの実空間濃度と浮遊菌・付着菌から見た微生物制御−」の、5.まとめ には、

...調査や保存対策のために入室することは,汚染を持ち込むおそれがあり,十分な準備を持って保存対策にあたる必要があることが明らかになった。...

とある。えらくはっきりとした結論じゃないの。保存のための調査がかえって仇になる恐れがアリアリということね。当然、取り合い部壁面を工事するとなれば、状況が悪化して不思議じゃないよね。そうだよね。

国宝高松塚古墳壁画保存管理の経緯」を見ると、平成7、8、10、11、12年の点検では「異常なし」だし、平成9年は「カビは盗掘口の上面のみ。」じゃない。長い期間に少しずつ悪くなったんじゃなくて、平成13年の工事を切っ掛けに黴が繁殖したんだよね。平成13年って、機構改革で保存科学部生物研究室が保存科学部生物科学研究室となった時 *1 じゃない。どんな工事したの。

責任云々が問題になるからと云って、避けたり隠しちゃだめだよ。失うのは誰かの面目だけじゃなくて、みんなの文化遺産も道連れにされるんだから。銭金も問題じゃないかも知れない。論点をずらしちゃいけませんな。